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永井 純のファッション・ライヴ
 
 
vol.77 <St.ODIN>人形が語りかけてくるもの



大阪府立中之島図書館・文芸ホールにて催されている「文楽の至宝・吉田玉男を偲ぶ写真展」へ行ってきました。

みなさまは「吉田玉男」氏をご存知ですか?
きっと「吉田玉男」氏を知っている方も多いことでしょうが、私はこの度の写真展で初めて「吉田玉男」という名を記憶の中に刻みました。

「吉田玉男」氏は文楽の人形遣いでした。
人間国宝であった人物でした。
気品のある演技で多くのファンを魅了していたそうです。
それはそれは一言では言い表せない程日本の文楽界を支え続けてきた人物だったようです。

入り口に掛けられた暖簾をくぐると正面に吉田氏の写真がありました。穏やかにこちらを見ていらっしゃいました。
その写真の前に写真集と吉田氏が掲載された雑誌がおいてありました。座って見てみると、この穏やかな吉田氏は普段はよくおしゃべりをされる楽しい方だったようです。

写真展には、
人形だけの写真と吉田氏と演じている人形と一緒に写っている写真とがありました。

総枚数50点。

人形はまるで生きているようで、息づかいさえ聞こえてきそうな空気感を持っていました。
「きっ」としまった唇から決意の強さを感じたり、傾けた首筋から色気を感じたり、俯く視線にはかなさを感じたり、とその写真の中で確かに人形は生きているのです。

吉田氏と一緒に写っている写真の中に確かに吉田氏はいるのですが、なぜか目がいくの人形でした。
演じている吉田氏はすでに人形と化しているのか、吉田氏そのものが人形なのか。
人形から出ているオーラに圧倒されてしまいました。

写真展はそれほど衝撃的でした。
今回の写真展はずっと氏を撮り続けた河原久雄氏の作品です。
この河原氏の撮っている写真は単に人形を撮っているのではなく、その背景にあるものさえ感じさせてしまう写真なのです。

凛とした気品や日本の美、控えめだけど華やかで艶っぽい。
クラシックでありながらモダンな感覚。
透明感を感じつつも重厚感も合わせ持つ、そんな感覚。
撮っている瞬間は、写真家さえもその空間の一部になっていたのではないでしょうか?
そう感じる写真です。

数ある写真の中で私が一番惹かれたのは、「定之進」。
平成16年9月、国立劇場で演じられた『恋女房染分手綱の能舞台定之進切腹の段』でのワンシーンの写真でした。
写真の下には「人形遣いの演じる人形が、面を付け能舞台を演じる。摩訶不思議な空間」とのコメントがありました。

能面を付けた人形が能を舞っていてるのですが、その写真からは見えるものは人形ではなく「定之進」そのものなのです。
そこには、「定之進」を演ずる吉田氏も感じることができませんでした。
ただならぬ決意を持ち能を舞う「定之進」が面を通して先に見たもの何なのでしょうか。

私はなぜこうまで写真に写った人形に惹かれるのでしょうか?
それは、そこに命を感じるからなのだと思うのです。
きっと、吉田氏が手を離すと人形は人形に孵ってしまうのでしょう。
吉田氏が演じることで人形は命を吹き込まれ、生き生きと輝きはじめるのです。
私が惹かれるのは、その命の鼓動。

素敵だと思いました。
心が震えました。

演じることで新しい命が誕生するのです。

これは、私にも共通点がありました。

1枚のただの布を切って繋げていく。
切るためにデザインを考えて、型紙を作って。そして糸と針でくっつけていく。
そうすることで服が生まれてくる。
1枚の布が命を持った瞬間です。

私の作っている服も輝いているでしょうか?
着ている人を「幸せ」にできるように心を込めて作っています。
服は人に着てもらってそこで初めて光り始めると思っていましたが、もしかするとちょっと着てくださる方に委ね過ぎていたかもしれません。

服そのものが光ってこそ、吹き込んだ命が輝いてくるのではないでしょうか。
だからその服を着た時にその命を感じて「幸せ」な気分になれるのでしょう。。。

素敵なことを教わった写真展でした。

気付かないことが多いかもしれませんが、
きっと、誰しも何かに命を吹き込んで日々過ごしているのではないでしょうか?
子供を持っているお母さんたちは、毎日作るご飯にも「愛情」という大きな命を吹き込ん
でただの野菜や肉を美味しいお料理に変えています。

会社で事務の仕事をしているOLさんだって同じなのではないでしょうか。
毎日毎日同じことの繰り返しのように見えるOLさんたちが作った書類や伝票は「文字」や「数字」という命が加わってそれを待つ人の元へ移動していくのです。
そしてそれが会社を支え、利益をもたらしお給料という形に変わって戻ってくるのです。
そんな風に考えるとちょっと素敵ですね。

人形が語りかけてくれたものは、自分自身の心のありかたのように思います。いろいろな環境の中にいる私たちは、ついつい自分のことだけで精一杯になってしまいます。
でも心の使い方ひとつで、新しい命を吹き込む相手を見つけられるように感じます。

命を通わす気高き人形遣い「吉田玉男」氏の写真展は12月6日まで開催しています。
命の吹き込まれたその凛とした人形と吉田氏の写真をぜひご覧になっていただき、心に響く何かに耳を傾けてみてください。
きっと2007年の素敵な体験になることでしょう。

次回につづく
 
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